MAO的小屋 ~相原茂の隠れ部屋~
Home Profile Essay Diary Column Gallery Books

MAO'S Profile
雑誌、新聞、書籍などに寄稿したエッセイ集。
お金の使い方

久しぶりに岸弘子さんからメールを頂いた。彼女は今,日本語学校で中国人留学生に言葉を教える仕事をしている。今回のメールは考えさせられるところが多く,彼女の承諾を得て,紹介することにする。

    *   *   *   *

日本語学校の学生から「これからは観光業界だから、そっちの方面に進学したい」という相談を受けます。日本の中国人旅行者に対する政策緩和を受けて、旅行業界がホットになるだろうと予想してのことのようです。

 ちょっとそれに関係ないこともないのですが……,今日、喫茶店のアルバイトから戻った娘が、かなり不機嫌で、理由を聞くと、次のように話してくれました。

 いかにもお金持ちそうな中国人親子(観光客らしき)が入店し、パフェと、オレンジジュースを注文した。待っている間に子供たちが、シュガーポットの砂糖を、自分のお冷の中にどんどんと入れ、遊び出した。両親は笑ってそれを見ている。しばらくして、目の前にパフェとオレンジジュースが来ても、全く口にせず、ひ たすらゲームと携帯に夢中。結局、ドロドロに溶けたパフェと、薄くなったオレンジジュース、散らかし放題のテーブルを残して、数時間後に親子は去って行った。

 娘の勤める喫茶店は、銀座のど真ん中にあり、コーヒー1杯が1200円もするのだから、パフェとオレンジジュースで5000円近く支払ったと予想されます。私は、1年に1度、親族割引でその店のケーキセットを食べに行くのを楽しみにしているというのに、なんたる浪費!!なんたる贅沢!!
最後に娘が「中国、大丈夫なん?」といった言葉が 胸に刺さりました。

 日本という国を知らずに、中国式のマナーで、大量の中国人旅行客がやってきたとしたら「中国人って、なんて礼儀知らずな!!」という悪いイメージばかりが独り歩きすることにならないでしょうか。きちんとマナーを守って生活している中国の永住者や、留学生に悪い影響が出ないでしょうか。

 最近、こんな話ばかり耳にするので、ちょっと心配です。

    *   *   *   *

こういうのは「中国式マナー」とは呼ばないだろう。いきなり金持ちになり,外国に行けるようになった。服も買えるし,スーツケースも立派なのを持てる。しかし,マナーはお金では買えない。外国人の注視の中でどうふるまえばよいか,一夜漬けで身につくものではない。

だが,日本だって,ついこのあいだまで,欧米に出かけて顰蹙を買っていたのではないか。

私も昔北京に出かけた頃の思い出がある。何の理由で訪中したか覚えていないのだが,中国へは今ほど頻繁に行ける時代ではなかった。それに訪中団の一員だと,時間がかぎられている。本屋などめったにゆけない。行けても時間制限がある。その時もそうだったのだろう。私は連環画や物語などのテープを買った。その買い方がふるっている。
「この棚のここからここまで全部ください。」
「ここにある故事のテープ,“一样一个”ですべて買います」

なにしろ,時間がないうえに,連環画などその当時,中国で買えば1冊5円とかなのだ。テープもせいぜい100円ぐらいである。日本人にとっては,いちいち手にとって迷うほどの金額ではない。それよりも時間のほうが惜しい。そんな気持ちがなせる行動であったが,現地の人の目にはどう映ったことか。

子供に一冊連環画を買い与えようとしているお母さんがいる。孫にいい話を聞かせようと物語のテープを物色しているおばあさんもいた。そこへ有無をいわさず怒濤のように買いあさる日本人である。悪いことをしたわけではないが,与えた心証はよくなかっただろう。にわか金持ちになると,お金の使い方が難しい。 「ジャパンマネー恐るべし」の時代である。


他のエッセイを読む